「貧乏人だから安い物は買わない」。矛盾しているように感じるが、考えさせられる言葉。

 

先の言葉の対象は洋服であった。安いものは使い込み馴染んでくる前に傷んでしまうため、結局高くても良いものを買うべきだと結ばれる。仕事着として汚れても気にならないファストファッションを多用してきた身としては、わかっているけどそうもいかないと思ってきたのは事実。だが、このファストファッションが自分の行動に良くない影響を与えていることに気づいてからは、少しずつ意識的に避けるようにしている。

僕らの仕事において服を汚す原因となるのは、接着剤を使う場面とオイル塗装をするとき。汚れてもいい服に身を包んでいると、指先に付いてしまった接着剤をつい拭いたくなってしまう。でも、これは濡れた雑巾を用意しておけばこんなことにはならない。作業の前に一枚上着を羽織るだけでも違うだろう。要は、汚れてもいい服が横着をしてしまう原因の一つになっていた。ものづくりにおいて、横着は致命的。作り出すモノの品質に関わるし、場合によっては自らの危険につながることもある。そう認識してからは、服装にも気を配るようにしている。(仕事場も一緒。汚い仕事場からは、良いものは生まれない。いいや、そんなことはない!いい仕事をする場所もある、と思っているところも、自分の目が肥えていないからそう見えるだけ。やはり、どこかに詰めの甘さを見いだすことができる)

高価な服を購入するとなれば、下調べは必要だ。本当ならば、店舗でいろいろ試しながら購入できればいいのだが、こんな山奥に住んでいるのでそうもいかない。ネットで信頼できるショップを探しだし、少しずつ購入している。返品交換も対応してくれるので安心しているが、やはり手間なのでなるべく避けたい。そのため、自分の体のサイズを事細かに調べた。サイズがわかれば、意外に間違いが起きない。ただ、同じような寸法・カタチであっても縫製の仕方によるのだろうか、着心地が異なることも知った。そして同時に、洋服にも「ものづくり」の哲学が見えるものが存在することがわかってきた。自然と興味も湧いてきて、最近はこんな本を手にすることも多い。

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ビスポーク・スーツというと、オーダーメイドで作られるスーツを指す。このビスポークとは本来、話し合うという意味を持っている be  spoken からきているという。お互いが実際に会い、話し合いながらつくるスーツということ。僕もクライアントに会ってから制作するスタイルをとっているが、モノ・状況は違えどオーダーメイドとは本来そういうものなんだと改めて認識した。

ヨーロッパには「ワードーローブは一生をかけて作り上げる投資である」という考えがあるという。当然、長持ちする質の良いものが前提となる。ものづくりの価値を見出せる良質なものを手にすると、その扱いから自分の行動にも影響してくる。豊かに美しく生きるにはどうしたらよいか考えることがあるが、案外そういったモノに囲まれて暮らしていれば自然と豊かで美しい生き方になるのかもしれないと思い始めている。量ではなく質を大事にしたい。

The quality not quantity.

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