飛騨高山の素材(木材・革)へのこだわり
家具をつくり始めて20年が経ちました。いろいろな家具を作ってきましたが、結局行き着いたのは素材にこだわることでした。飛騨高山の木材と革で最初から最後まで自分で管理しています。もちろん、プロの材料屋さんに一任してしまうのも一つの手ですが、往々にしてそこで思いが変わってしまいます。それを避けるため、面倒な原木や原皮からコントロールする仕組みを構築してきました。

木材の成分を活用する新しい家具づくりへ
徹底的に管理することで自然に行き着いたのが、木材の成分を活用する新しい家具づくりです。動けない木材は、本来自分を守るために多くの成分を持っています。そしてこの成分を少しずつ放散(揮発)していることがわかったのです。その中には人にとても良い影響を与える物質も多くあり、それらを利用する新しい木材活用が生まれました。
どんな木材でも良いのかというと、そうではありません。人はすぐに使いたいので高温による急激な乾燥をしたり、安い木材を海外から輸入してきました。そして、汚れが付かないようにと、綺麗に塗装をして木材を使ってきたのです。熱をかけたり、どのように扱われているのかわからない海外の木材(※)に塗装までしたら、木材の成分はなかなか活用できません。だから現在は、輸入材を使っていません。
※ 海外からの材料は虫や卵を日本に持ち込まないようにするため全て臭素薫蒸消毒されています。残念ながら、残留物などの調査は行われていません。

※ 2013年と少し古いデータですが、輸入木材の12%が違法リスクが高いという驚くべきデータがあります
※ 違法木材は巧妙に混ぜられてしまうため判別はできません。国産材も産地ごとに分けられていないため、リスクの温床だと考えています。国産材としかうたえない木材がほとんどです。

トレーサビリティを基本にした独自の取り組み
□ キュアファニシングCure Furnishing
伐採地まではっきりした飛騨高山の原木を、じっくり時間をかけて天然乾燥し、木材本来の成分を保持させ、出来るだけ無塗装で使い、部位によっては耐候性や黴止めに天然発酵液の柿渋や自然の植物性ビーワックスを塗布することで木材からの放散成分を最大限活用する新しい家具づくりを始めました。それが「キュアファニシングCure Furnishing」。家具を室内に置いて使用しているだけで、室内の空気が変わります。木材が自然に放つ成分に着目した新しい木材活用 Cure Furnishingでインテリア・家具の提案・製作から、空間づくりのためのトータルなサポートをしています。
□ 牧野木の総合学研究所 CURE WOOD LAB.
Cure Furnishingの基礎研究である木材の成分を分析し活用を研究するのが「牧野木の総合学研究所 CURE WOOD LAB.」です。すでに睡眠の質を改善する成分をもつ木材や抗菌成分をもつ木材を確認しており、実際に家具づくりに活かし始めています。こちらは阿部藏之氏(木の総合学研究所)、清水邦義氏(九州大学農学研究院准教授)、トビアス・フリードマン氏(デンマーク在住)にも加わっていただき、今後さらに木材活用の幅を広げてゆきたいと考えています。
□ ヒダレザーHIDA Leather®
そして自身で開発した飛騨牛皮革を使用した家具用革 HIDA Leather®です。
□ クルミ谷
未来を担う子供達と何かできないかと始めたのが、人と樹木との関係を子供たちと遊んで学ぶ「クルミ谷」です。子供達が自由に遊べる森を目指して、少しずつ活動していきます。


気がつけば、家具を通じていろいろ活動してますが、根底にあるのは木で人の暮らしを良くしたいという思い。総合的に見て、環境や人に良くないと思うことはしません。昔、一番気にしていた見た目のデザインは、本当に最後の要件になりました。もちろん、デザインが何でもいい訳ではありません。もっと大切にしたいものが見えたからです。
夢は空気質の指標に木の成分を加えること
厚生労働省は住まいの空気質の基準として、VOC(揮発性化学物質)の上限濃度を定めています。これは人にとって悪影響があるので、これ以下にしなさいという言わばマイナスの指標。ところが、プラスの指標は一つもないのです。無垢材をどんなに使っても数値的な評価はゼロ。ここに木材の微細放散成分を追加したい。寝室に適した成分と濃度、美術館や博物館のような収蔵品を守るのに適した成分と濃度など。
木で人の暮らしを良くしたい
欧州に比べて10倍以上も樹種を持つ日本。我々が知らないだけで、もしかしたらVOCを吸着・分解する夢のような木材も存在するのではないかと考えています。木にはまだまだ知られていないことがたくさんあるのです。家具づくりをつうじて、木をもっともっと研究し、木で人の暮らしを良くしたいと思います。